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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)4149号 判決 1992年8月27日

大阪市福島区海老江五丁目一番六号

原告

株式会社ナリス化粧品

右代表者代表取締役

村岡有尚

右訴訟代理人弁護士

高島照夫

熊谷尚之

中川泰夫

池口毅

小松陽一郎

静岡市水落町二番二三号

被告

株式会社ポーラ化粧品本舗

右代表者代表取締役

鈴木常司

右訴訟代理人弁護士

小野昌延

山上和則

松村信夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、その製造販売にかかる健康(補助)食品につき、「BIOQUEEN」又は「ビオクイーン」の標章及びこれらを含む構成からなる標章を商標として使用し、又はこれを使用した健康(補助)食品を販売拡布してはならない。

二  被告は、その占有する「BIOQUEEN」又は「ビオクイーン」の標章及びこれらを含む構成からなる標章を商標として使用した健康(補助)食品の容器、包装、標識、パンフレット、説明書、その他の印刷物を廃棄せよ。

三  被告は原告に対し金六〇〇万円及びこれに対する平成三年六月八日(訴状送達日の翌日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  当事者の営業

原告も被告も、主として訪問販売の方法により化粧品、健康(補助)食品等を販売する会社である(争いがない)。

二  原告の商標権

原告は左記商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という)を有する(争いがない)。

登録番号 第一七六二五九三号

出願日 昭和五四年一二月一二日

出願公告日 昭和五九年八月七日

設定登録日 昭和六〇年四月二三日

指定商品 商品の区分(平成三年政令第二九九号による改正前。以下「旧商品区分」という)第四類化粧品(薬剤に属するものを除く)

登録商標 別紙商標公報(1)記載のとおり。

三  原告の使用商標

原告は、昭和五五年一〇月から「BIOQUEEN」

「ビオクィーン」、「BIOQUEEN N」「ビオクィーン N」、「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」なる商標(以下、これら各商標を一括して「原告各商標」といい、その要部である「BIOQUEEN」「ビオクィーン」を「原告商標」という)を化粧品及びその包装に付して広告販売してきている(甲二の1、2、三の1~46、四の1~57、五の1~39、六の1、2、七の1、2、八の1~4、九、一〇の1~24、一八、二八~三〇、三七の1~22、乙一七の1~7、一九の1~3、検乙一の1~4、四の各1ないし4の各1、2)。

四  被告の行為

被告は、平成三年二月頃から、その容器及び包装箱の正面に「BIOQUEEN」なる商標を、その背面に「ポーラビオクイーン」なる商標(以下、両商標を併せて「旧イ号商標」という)を付して、調製ローヤルゼリーの健康

(補助)食品の販売を始めた(甲一三、一四の1、2、二〇、検甲一の1~6、二の1~6)が、その後、右商標の使用について原告の抗議を受けたため、平成三年八月頃以降生産分についてはすべて、その容器及び包装箱の正面に別紙イ号の一記載の商標を、その背面には別紙イ号の二記載の商標(以下、前者を「イ号一商標」、後者を「イ号二商標」、両者を併せて「イ号商標」という)を付しており、現在被告が製造販売している調製ローヤルゼリーの健康(補助)食品(以下、「イ号商品」という)は右変更後のものとなっており、今後右変更前の旧イ号商標を付したイ号商品が販売されるおそれはない(乙二〇の1、2、四五、五四~五七、検乙一の1~4、二の1~6、三の1~5、弁論の全趣旨)。

五  請求の概要

被告が、

<1>広く認識されている(以下「周知性を取得している」ともいう)原告商標と同一又はこれに類似する旧イ号商標ないしイ号商標を付してイ号商品を販売していることを理由に、不正競争防止法一条一項一号に基づき、

<2>本件登録商標と同一又はこれに類似する旧イ号商標ないしイ号商標を付して、本件登録商標の指定商品と類似するイ号商品を販売していることを理由に、商標法三六条に基づき、

イ号商品に旧イ号商標ないしイ号商標を使用することの停止等と平成三年二月から平成四年二月末までの間の通常使用料相当損害金の支払を請求。

六  主な争点

1  原告商標が周知性を取得したか。また、その周知性取得の程度。

2  旧イ号商標ないしイ号商標を付したイ号商品の販売により、商品主体間における広義の混同を生じるか。

3  本件商標権の効力がイ号商品に及ぶか(調製ローヤルゼリーの健康(補助)食品が化粧品に類似する商品といえるか)

4  被告の行為が不正競争防止法一条一項一号又は本件商標権侵害に該当すると認められた場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害の金額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告商標の周知性取得の有無・程度)

1  原告の主張

(一) 原告は、昭和五五年一〇月から「BIOQUEEN」「ビオクィーン」、「BIOQUEEN N」「ビオクィーン N」、「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」なる商標を化粧品及びその包装に付して大々的に広告販売してきた結果、次のとおり「BIOQUEEN N」「ビオクィーン」なる原告商標は、遅くとも被告が旧イ号商標を付してイ号商品の販売を開始した平成三年二月には、広く国内において周知性・著名性を取得していた。

(1) 「ビオクィーン」のシリーズとして販売してきた具体的商品は、洗顔料のダブルクレンジング、油性クリームのマッサージパック、一般肌用のオールパーパスローション、乳液のモイストクリームローション、油性タイプのエンリッチクリーム、化粧水のエッセンシャルローション等であり、価格は三五〇〇~一万円である(これ以外に小型のトラベルセットもある)。なお、例えば、エンリッチクリームの配合成分にはローヤルゼリーが、また「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」シリーズの各商品にはバイオ醗酵エキスが成分として配合されている。

(2) 原告は「べにゆり」と題する販促用ニュースを消費者向けに発行し、販売員による戸別訪問やポスティング

(家人不在の場合にポストヘ投函する方法)によって、全国の一般消費者に配付し続けてきた。「べにゆり」は昭和五五年九月三〇日から昭和六一年一月三一日までの間、凸版印刷株式会社に注文して合計二〇八八万六五〇〇部(うち原告各商標を付した商品の広告が掲載されたものは一九八三万七五〇〇部)が製作され、一般消費者に配付された。原告の手元に保存されている「べにゆり」は、昭和五六年一月一日発行のVOL32からVOL88までであるが、その大部分には「BIOQUEEN」又は「ビオクィーン」或いは略称としての「BQ」の商標を商品と共に表示し広告してきた。なお、甲第三号証の22~26、28~34、36~46には、原告及びその関連会社販売にかかる健康食品の「ビタアルファ」「ロイヤルエース」(ローヤルゼリー使用)「ラクトカルC」「スリムチャンス」「パワーエース」「ビタアルファゴールド」「プルーンミックス」「ビタカルC」の広告も同時に掲載されている。

(3) 原告は右「べにゆり」シリーズから引き続いて「ナリス美通信」と題する販促用ニュースを発行し、「べにゆり」と同様に全国の一般消費者に配付し続けてきた。

「ナリス美通信」は昭和六一年四月一日発行のVOL1から毎月発行されているが(平成三年三月発行まででVOL60)、平成二年三月号までで合計二八五〇万五六六〇部が製作され、一般消費者に配付されている。そしてそのうち、二七一八万八三一〇部には「BIOQUEEN」又は「ビオクィーン」、「BIOQUEEN N」又は「ビオクィーン N」(昭和六一年一二月号から)、「BIOQUEEN Ⅲ」又は「ビオクィーン Ⅲ」

(平成二年一月号から)の商標が商品と共に表示され広告されてきた。なお、これら「ナリス美通信」にもやはり健康食品の広告が時々掲載されている。

(4) この他、「BIOQUEEN」「ビオクィーン」の商標が印刷されたポスター合計九五一〇部、「BIOQUEEN N」「ビオクィーン N」の商標が商品広告と共に印刷されたパンフレットが合計八〇万部、「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」の商標が商品広告と共に印刷された拡販チラシ合計一五万部が製作され、全国の一般消費者に配付されたり販売店に掲示されたりしてきた。

以上、原告各商標を付した化粧品の広告宣伝を記載したもので、凸版印刷株式会社関係で作成され配付された印刷物だけでも、過去約一〇年間で、合計四七九八万五三二〇部にのぼっている。

(5) 原告は、右以外にも邨田印刷紙器株式会社に注文し、「ビュウティコレクション」「サマーコレクション」その他の広告資料を多種類にわたり製作配付してきた。その発行部数は過去約一〇年間で合計一一九七万七一〇〇部にのぼる。これらの印刷物にも前同様原告各商標が印刷表示されている。

また、大枝印刷株式会社に注文して、「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」のパンフレットを合計四〇万部製作し、前同様の方法により配付した。

(6) これらを合計すれば、広告用印刷物だけでも総合計六〇三六万二四二〇部を製作発行し、販売促進用に配付してきたのであり、その印刷費だけでも約五億円に達する。これら以外にも、業務用すなわち販売店用のプロダクトガイドブック等も多数製作発行している(販売店は全国に約五万七〇〇〇箇所ある)。

(7) 原告はこれら印刷物の製作配付手段以外にも、テレビコマーシャルにより原告商標の周知・著名化を行ってきた。テレビを媒体とした広告宣伝費は昭和五七年一〇月から平成元年三月までの六年半で合計一九億二九八〇万円に達する。

(8) 原告商標を付した化粧品の販売実績は次のとおりである。

<1>「BIOQUEEN」「ビオクィーン」関係

昭和五五年八月から昭和六三年三月までの間(昭和五五年八、九月は販売店への販売が先行している)

数量 四四万二五二〇ダース(四三一万二四〇個)

金額 三二四億九四五八万一〇〇〇円

<2>「BIOQUEEN N」「ビオクィーン N」関係

昭和六一年一〇月頃から平成三年三月までの間

数量 二五万七二六〇ダース(三〇八万七一二〇個)

金額 一八五億五八五五万四〇〇〇円

<3>「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」関係

平成元年一〇月頃から平成三年三月末までの間

数量 一二万六七二四ダース(一五二万六八八個)

金額 八七億七八四万二〇〇〇円

したがって、原告各商標を付した原告の右期間中の化粧品の販売実績のトータルは、合計数量八二万六五〇四ダース(九九一万八〇四八個)、合計売上金額五九七億六〇九七万七〇〇〇円となる。

なお、原告各商標を付した化粧品の容器、包装、説明書等も右販売実績に見合うよう製作されてきている。

(9) 以上の次第であって、原告各商標、特にその要部である原告商標は、原告の主力商品の商標としていずれも広く国内において周知性・著名性を取得している。そして、この事実は、同業他社の大手も認めている。

(10) 訪問販売方式が周知性の認定に際しマイナス要素となることはない。周知とは「相当範囲の取引者又は需要者の間に広く知られている客観的な状態」であって、店頭販売であろうが訪問販売であろうが、本件のように、昭和五五年一〇月から今日に至るまで、総売上高が約六〇〇億円、総売上個数が約九九一万個、年間売上個数が約九〇万個(日本人女性が六〇〇〇万人と仮定すれば、赤子から老人までの女性約六〇人に一人が年一個購入している計算になる)、広告用印刷物だけで約合計六二〇〇万部、印刷費だけで合計五億円強、テレビコマーシャルの広告宣伝費が合計約一九億円強である場合には、原告商標が周知となっていることは動かし難い事実である。

2  被告の主張

(一) 原告商標は周知性・著名性を取得していない。原告は、原告商標を付した化粧品を、専ら訪問販売の方法によって、直接に需要者である顧客に販売している。このような販売方法は、店頭販売に比して商品の流通経路及び顧客が限定された閉鎖性の強い販売方法である。原告主張の販促用ニュース「べにゆり」「ナリス美通信」等は、専ら原告販売員が訪問販売の際に、その訪問先顧客に配付・提供しているものに過ぎず、広く一般需要者に対して行われる商品広告、営業広告用パンフレットとは自ずと性質を異にしている。

すなわち、原告も被告も訪問販売を主としている特性から、商品の代表的出所標識(ハウスマーク)たる「ナリス」、「ポーラ」の広告宣伝には力を注いでも、「BIOQUEEN」「ビオクィーン」の訪問販売先以外への広告宣伝は行っていないといってよい。また、原告がテレビコマーシャルにより宣伝を行っているとしても、それはどちらかといえば原告が販売する化粧品(一般に「ナリス化粧品」と呼称されている)全体の品質内容の優位性を宣伝することに重点があり、「BIOQUEEN」「ビオクィーン」等の商標を付した商品をテレビコマーシャルしている部分は少ない。

(二) 原告は、原告商標のテレビコマーシャルを平成元年四月一日より止め、現在まで行っていない。この事実は原告にとって、原告商標が、自社のハウスマーク「ナリス」に比しては、それ程重要でないことを意味している。また、広告の氾濫している今日においては、平成元年四月以降のテレビ広告中止の意味は大きく、現在の知名度に大きく影響せざるを得ない重要事実である。その上、原告が過去に行ったテレビコマーシャルすらも、その一回の放映時間は三〇秒であり、そのうち「ナリス」の企業広告に用いられた放映時間が大部分で、原告商標に関する何秒かの映像は一瞬のものであり、殆ど記憶に残らず印象の薄いものである。

(三) 原告が周知・著名と主張する「BIOQUEEN」

「ビオクィーン」(原告商標)は、その使用の具体的な現在の表示態様は、全て「ナリスビオクィーン Ⅲ」であって、「ビオクィーン」単独ではない。すなわち、原告が当該化粧品に使用する容器、箱、パンフレット等に記載されている表示構成態様は、「ビオクィーン」に必ず原告のハウスマーク「ナリス」が付加されており、例外的に付加されていない場合は、原告のハウスマーク「ナリス」が明示されたパンフレット等に収載されている場合である。不正競争防止法に基づく差止請求を主張するかぎり、商標権に基づく場合とは異なり、「ナリス」と「ビオクィーン」を分断した「ビオクィーン」標章の単独での権利主張は、その具体的使用実体と乖離した主張であり、不当といわねばならない。

二  争点2(商品主体間における広義の混同を生じるか)

1  原告の主張

(一) 原告使用の商標「BIOQUEEN」「ビオクィーン」「BIOQUEEN N」「ビオクィーン N」、「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」の要部が

「BIOQUEEN」「ビオクィーン」(原告商標)にあることは明らかであり、イ号商標が原告商標と外観、称呼において類似していることは多言を要しない。被告は、旧イ号商標ないしイ号商標を健康(補助)食品の容器の正面及び裏面に、またその包装箱の正面及び裏面に使用しており、内部の説明書、カタログ、情報誌等にも使用している。なお、右容器等の正面の「BIOQUEEN」の上部には、原告が「BIOQUEEN」の略称として使用してきた「BQ」の表示も使われており、容器のイメージも原告のものと似ている。

(二) ところで、原告商標は化粧品に使用されており、旧イ号商標ないしイ号商標は健康(補助)食品に使用されている。しかし、不正競争防止法一条一項一号にいう「商品主体混同行為における混同は商品と商品の(同一又は類似による)混同ではなく、商品主体間での広義の混同であるとするのが通説・判例である」(小野昌延編著「注解不正競争防止法」一五二頁)。

そして、原告を含む化粧品業界では、多くの同業者が化粧品と共に健康(補助)食品の販売を行ってきている。これは、内からの美容、外からの美容という点で共通しているからである。被告のカタログにおいても化粧品と健康(補助)食品とが同列のものとして掲載され、また他業者では化粧品と健康(補助)食品に同一商標が使われている例さえある。ましてや、原告も被告も共に主として訪問販売方式を採っており、最近の家人の在宅率の低下にともないポスティングによる広告もかなりなされているのであるから、消費者が商品主体について混同するおそれは極めて高いというべきである。つまり、旧イ号商標ないしイ号商標を付した健康(補助)食品が原告販売にかかる主力著名商品或いは原告と、ライセンス契約の締結等、何らかの関係がある者を出所とする商品であるとの混同を生じさせるおそれが十分にある。現に、一部ユーザーやディーラーからの混同による問い合せも原告に来ている。このため、原告の営業上の信用(化粧品と健康(補助)食品に同一商標を使用することは好ましくないとされている)等が害されている。

(三) 不正競争防止法一条一項一号にいう「混同のおそれ」は、当該取引界の実情と公衆の判断を標準とすべきであるといわれており、ここでの公衆は、理性的な合理的人間ではなく、誤りを起こし易く、欲望等に動かされ易い普通の生活人(女性)を考えなければならない。

被告は、訪問販売の方法により訪問先でのみ直接に顧客へ販売するシステムであり、販売経路が相互に全く独立しているから商品の混同はあり得ないと主張するが、先ず、被告は、訪問販売以外にも店頭販売を行っている事実が存在する。また、一般消費者が不在の場合(近年は、女性特に主婦の稼働率が約五〇%といわれており、在宅率の低下は訪問販売業者にとって重要課題となっている)、当然にポスティング、テレビコマーシャル等により、複数ルートで消費者への勧誘がされているので、消費者の記憶に「BIOQUEEN」「ビオクィーン」の表示が保持されており、時間的経過等の離隔的状況下で混同が生じることは経験則・社会通念上当然に認められるものである。

(四) 原告商標に被告のハウスマーク「ポーラ」を付加して「ポーラビオクイーン」と一連に書したとしても、「ポーラ」の部分は生産者又は販売者を表すいわゆる代表的出所標識であるから、「ビオクイーン」のみについても独立に称呼・観念を生じ、原告商標「ビオクィーン」と類似し混同を生じることは明らかである。横書きした

「BIOQUEEN」の上部に「POLA」と二段に表示した場合はなおさらのことである。

ブランド名である「BIOQUEEN」「ビオクィーン」が周知性・著名性を取得し、識別力においてハウスマークに吸収されてしまうことのない本件においては、少なくとも、原告と被告が本件の各商品について原告商標を使用している事実から、消費者が、この共通の「BIOQUEEN」「ビオクィーン」ないし「ビオクイーン」という商標使用の事実を通じて、両会社が業務提携やライセンス契約等の取引関係、経済関係を有しているのではないかと、誤認するおそれが十分にある。したがって、広義の混同のおそれの存在は明白である。

また、化粧品と健康(補助)食品との商品間の類似(これは商品主体混同行為の成否にとっては、直接の関連はないが念のために主張する)についても、同じ販売方式のもとでこの二種が販売され、店頭においては近い距離で並べられ、パンフレット類においても並行して広告されていることから、商品間に類似関係があることは明らかである。

商標審査基準によれば、商標法四条一項一一号に関し、商品の類否を判断するに際しては、<1>生産部門が一致するかどうか、<2>販売部門が一致するかどうか、<3>原材料及び品質が一致するかどうか、<4>用途が一致するかどうか、<5>需要者の範囲が一致するかどうか、等を基準として総合的に考慮すべし、とされている。本件の化粧品と健康(補助)食品とは、具体的に生産部門が一致していること、販売部門が一致していることは明らかである(しかも多くの同業者も同じである)。用途も、内からの美容、外からの美容という点で共通している。需要者の範囲も美容に心掛ける女性という点で共通している。被告自身も、コスメティック(化粧品)のカタログに、本来の化粧品と共にイ号商品を広告している。これだけ共通点があれば、これらを総合判断すると商品の類似性があることにも問題はない。この手法は不正競争防止法上の判断に際しても排斥される理由はない。

(五) 原告各商標を付した商品は、百貨店においても店頭販売されている。具体的には、大丸百貨店(心斎橋店、神戸店、京都店)及び近鉄百貨店(阿倍野店)であり、大丸百貨店では販売個数合計一万二三八二個、販売高合計七六一二万五九四一円であり、近鉄百貨店では販売個数合計四九九〇個、販売高合計三〇六六万四九五二円である。

被告は「ラ・ポーラ」において健康(補助)食品・化粧品販売コーナーを設けてイ号商品を店頭販売している。また、各種化粧品が販売されているいわゆる安売り店において、被告商品も販売されていることは、被告も認めるところである。これは、大阪近辺を調査した結果少なくとも五店舗発見されたというものであり、今日のディスカウント・ショップ繁盛の実情に鑑みれば、全国的にはかなりの安売り店において販売されているであろうことは容易に推測できる。

また、ポスティングについても、常識的に考えても、相手が不在の場合、名刺やパンフレットを投函しておいて客と親しくなる手法がノーマルな訪問販売の方法である。現実に、原告の従業員宅へ被告販売員によるポスティングが行われたのであって、軒並み投函かどうかは別として、被告販売員によるポスティングが行われている事実は動かし難い。

以上の事実からみて、被告のような巨大企業であってみれば、閉鎖された販売網などは存在しないことが明らかである。需要者に混同を生じるおそれがあることは明らかである。

2  被告の主張

(一) 被告の規模及び売上高

被告は、昭和二一年に設立された化粧品等の販売を目的とする会社であり(化粧品等の製造部門を担当する姉妹会社ポーラ化成工業株式会社は昭和一五年に設立された)、平成三年現在、全国に約六〇〇〇箇所の支店、営業所を有し、従業員は正社員約一〇〇〇名(姉妹会社のポーラ化成工業を含めると約二〇〇〇名)、ポーラレディと呼ばれる専属の委託販売員は約一八万人にも達している。

被告は、ポーラレディと呼ばれる専属の販売員を通じて、直接消費者に化粧品の訪問販売を行っている。このような化粧品の訪問販売は被告の親会社有限会社忍総業が創業時の昭和四年に他の化粧品会社に先駆けて開始したものであり、同時に一貫して行ってきた販売方式である。そのため「ポーラ化粧品」の名声とともにこの販売方式は被告の商品販売方式として広く需要者に知られている。

また、平成元年度の被告の化粧品の売上高は約八八五億円であり、右売上高は全国の化粧品の製造販売会社中で第三位(訪問販売による化粧品販売では全国第一位であり、世界的にも第二位)である。

特に被告は、その優れた品質と、ポーラレディを通じて顧客に直接販売を行う方法で、化粧品を愛用する女性は勿論、被告の多年にわたる広告宣伝努力により、一般人にもその名声を広く知られている。

他方、原告は、昭和二四年に設立された会社であり、化粧品・調整品製造販売を主たる業務としている。原告の平成元年度における総売上高は一四五億五七四一万九〇〇〇円であり、売上高で見るかぎり、我が国の化粧品香料の販売会社三四八社中第一九位に位置している。

(二) イ号商標選択の経過

被告グループは、平成元年一〇月頃から、新たに売り出す健康(補助)食品の商品名について検討を始めたが、右商品が既に被告においてバイオ技術を使用して開発していた鉄分補給素材の「ビオフェロン」とローヤルゼリーを融合した商品であったことから、最終的には右「ビオフェロン」の「ビオ」と女王蜂を意味する「クイーン」を結合した「BIOQUEEN」とすることに決定した。

そこで被告の姉妹会社ポーラ化成工業株式会社は、右「ビオクイーン」「BIOQUEEN」を右一連の健康(補助)食品の商標として使用すべく、該当する旧商品区分第三二類につき類似登録商標の調査を行ったところ、類似する登録商標が存在しなかったため、平成元年一一月二四日、右「BIOQUEEN」「ビオクイーン」の標章につき旧商品区分第三二類の加工食料品(他の類に属するものを除く)等を指定商品として商標登録出願をし、イ号商品にこれを使用している。

以上のとおり、被告のイ号商標の選択は、原告商標の存在及び原告商品における使用の事実を全く知らずしてしたものであり、被告が原告商標の存在を知っていたならば、他の商標権者の存在のため選択しなかった第一候補の別の商標「ビオロイヤル」を選択していたはずである。

被告は、「ポーラ」の名称に独自の名声を有しており、ナリスの名称や個別商標を悪用する必要はない。また、前述の原告と被告との企業規模や売上高の相違及び原告も被告も訪問販売による独自の販売ルートを持っており、流通の過程において訪問販売の特性上両者の商品の間に混同を生じさせることができないなどの事情を考慮すれば、被告があえて原告の個別商標と類似する商標を使用することにより自己の商品と原告の商品との間に混同を生じせしめ、原告の商標の名声・信用を利用して自己の利益を図るような行為(いわゆる「パッシング・オフPassing off」行為)を行うことはない。

(三) イ号商品は専ら訪問販売の方法により直接顧客に販売されている。このような訪問販売の際には、販売員は、自己及び販売事業者の名称等を顧客に告げなければならないことを訪問販売等に関する法律により義務付けられており(同法三条)、実際にも被告の販売員は「ポーラ化粧品」の販売員であることを先ず顧客に明示したうえで商品の販売活動を行っている。また、顧客もこのような被告の販売活動を熟知しているから、被告の販売員が、訪問販売を行う場合には、それが被告の商品であることを知らずにイ号商品を購入することは皆無である。

このように、原告と被告のそれぞれの商品は、相互に全く独立した販売経路を通して販売が行われており、原告の「BIOQUEEN」「ビオクィーン」を被告の商品として間違って購入することもなく、また被告のイ号商品を原告の販売する健康(補助)食品と混同することもない。なお、現在被告の販売しているイ号商品の容器の蓋の部分には銀帯が掛けられており、右銀帯の存在によっても、容易に原告商品との識別が可能である。

(四) 商標登録の問題としては、商標の将来における発展の可能性を考え、或いは将来の信用の受け皿としての登録、将来の禁止権の範囲内の登録の阻止のため、二段書きのものは、それぞれを別個のものとして類似判断をすることもあり得る(しかし、それは判断の一手法であって、究極は、全体的・総合的判断である)。しかしながら、このことですり替えて、本件で旧イ号商標ないしイ号商標中の「ポーラ」ないし「POLA」部分を無視する理由に用いることは許されない。

不正競争防止法は、商品の出所混同を招く行為を具体的に直接防止することを目的としており、不正競争防止法上の商標等の表示の類否は、出所混同認定のための補助的前提的手段であると同時に、その類否判断は、出所混同性によって決定されさえする(豊崎・松尾・渋谷「不正競争防止法」一三五頁)。商標法上の類否判断が、相互の商標の表示を静的かつ形式的に対比して決するのに対し、不正競争防止法における商標等の類似判断は、表示の著名性、近似度、両商品主体間の競業関係の有無・程度、商品表示選択の動機等一切の具体的事実を考慮に入れた上で、当該取引等の実情に照らし、商品主体間の混同を生じるおそれを具体的に判断して決せられる。この場合において、「POLA」「ポーラ」の文字が入るのと入らないのとは大違いである。

したがって、商標法上の「登録制度」を前提として、商標間で類似性が認められた審決の抽象的法理をいくら引用しても、不正競争防止法の事案においての具体的両商品間における表示の類似性が認められる理由に、それのみではならない。不正競争防止法一条一項一号の適用に関し、抽象的に商標間に類似性が認められたとしても、それによって直ちに両商標を使用した商品間に混同が生じることにはならないのである。

不正競争防止法の案件において、化粧品に「ビオクィーン」という表示のある場合、健康(補助)食品の「ビオクイーン」という表示と、健康(補助)食品の「ポーラビオクイーン」という表示の場合とでは、両表示の近似度が同じであるとか混同度が同じであるとは到底いうことはできない。そしてこの場合、ハウスマークの「ポーラ」が有名であればあるほど混同は生じない。

女性は自己の肌に付ける製品への品質の信頼感には非常に敏感で、それだけ関心が強い。高価格の化粧品や健康(補助)食品の購入は、先ずその製品の品質への信頼度が大きく左右する。それだけ企業名の知名度は、商品の選択における大きな要素である。

(五) 不正競争防止法一条一項一号の本質はパッシング・オフである。同法の条文上は、「不正競争の目的」という主観的要件が、法強化のために削除されたが、しかしそれは、パッシング・オフをする者を、立証上主観的要件の存在のために、法の網から免れさせないためのものであって、真実そのような目的のない者の営業の自由・名称選択の自由まで奪うことになってはならない。不正競争防止法の本質は、パッシング・オフ、すなわち、被告が原告の「BIOQUEEN」「ビオクィーン」の名声を利用し、原告の商品にみせかけること、その危険の防止である。本件事案では、かかることは全くないのである。

(六) 被告は、イ号商品を訪問販売しているのであって、ラ・ポーラにおける広報活動としての極めて例外的な有償頒布のような例を除いては、店頭販売活動をしたことはない。ラ・ポーラは被告の広報部に所属し、被告の訪問販売の弱点を補い、かつ企業イメージを高める等の目的から設置され、主に文化活動を中心に、被告の企業イメージを高める広告宣伝活動を行っている。同所では、来訪者が特に求めれば、広報活動の一環として商品を有償で販売しているが、利益を目的とした通常の販売ではなく、不特定多数の顧客の来集を目的とした店頭販売とは異なるものである。

また、原告が指摘する各安売り店は、一部の営業所長、ポーラレディー等が委託販売契約に違反して、販売委託された化粧品等を廉売したものを入手したり、或いは品揃の必要上、安売り店自身がユーザーその他から定価購入したものをさらに販売しているものである。被告自身もこのような廉価販売によって被害を被っていることから、かような契約違反商品の販売を防止するため種々の方法によって防止活動を行っている。このような安売り店における廉価販売は、被告が関与できない、通常販売ルート以外のところで入手した商品を勝手に販売しているのであるから、かような例外的事象をもって被告がその化粧品等を訪問販売以外に店頭販売しているということはできない。なお、イ号商品については、現在までのところこれら化粧品の安売り店では販売されていない。健康(補助)食品は、販売期間(賞味期間)が限定されており、売れ筋商品を中心に品揃をし、かつ現金仕入をする安売り店による店頭販売には適さない商品である。

被告は、ポスティングによる販売推進を行っていない。全国の被告の販売拠点である四箇所の営業部、約七〇箇所の販社、約六〇〇〇箇所の営業所に対して、販売促進のための指導を行っている被告の販売企画部では、販売促進のためのポスティングを行わない方針を堅持している。何故ならば、被告の商品は、高級品の比重が高く、高級品の販売促進のためには、不特定多数を対象とするポスティングは極めて効率が悪いからである。被告は、従来から販売員が見込み客に直接面談し口頭で商品の紹介とアドバイスを行うカウンセリング販売を主体として販売促進活動を行っており、ポスティングによる販売促進活動は行っていない。傘下の営業部、販社、営業所に対しても、マニュアル等でその旨指導している。

(七) 不正競争防止法にいう混同は、狭義の混同に限定されず、広義の混同をも含むものであると解しても、それは「ソニー」のような著名商標の場合のことである(「ナリス」であってもこれらが認められるとは限らない)。原告は「商標の希釈化」をも主張するが、これも同様

「ナリス」であっても事案によっては認められるとは限らないものである。ましてや、到底「BIOQUEEN」「ビオクィーン」のような商標に認められるような法理ではない。

三  争点3(本件商標権の効力がイ号商品に及ぶか・調整ローヤルゼリーの健康(補助)食品が化粧品に類似する商品といえるか)

1  原告の主張

イ号商品は、被告の「Beauty Text」に記載されているように、正に「細胞を活性化し美肌にみちびく」「美しい素肌づくりのためには、化粧品によるお肌のお手入れはもちろんのこと、健康な素肌であるために、体の内側から必要な栄養素をとり……」「ビオフェロンの美肌効果」「美肌効果満点」等と紹介されているように、美容のための健康(補助)食品であり、原告の商品も、単に顔面に化粧するというだけでなく「皮膚生命をつかさどる生化学成分(イ号商品の成分と同じローヤルゼリーを含む)」による美容効果をも目的としているという点で両者は極めて近似している。だからこそ、被告も、「COSMETICS」(化粧品)と表示した広告パンフレットにイ号商品を掲載しているのである。

被告は旧商品区分第三二類の加工食料品と化粧品とは非類似だとして両商品の違いを強調しようとしているが、それは抽象論であって、両商品の具体的な内容を敢えて無視した議論である。加工食料品は乙第五一号証に示されているように本来は「加工野菜及び加工果実」の類であって、イ号商品のような医薬品に近いような健康(補助)食品を念頭においているものではない。また、口にするものとそうでないものとの間でも、例えば商品区分第三類(平成三年政令第二九九号による改正後)の「さび除去剤」「染み抜きベンジン」と同第三〇類の「アイスクリーム用凝固剤」「ホイップクリーム用安定剤」とは他類間類似商品とされている位である。

商標法上の商品の類似は、商品自体の類似によって決せられるものではない。商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、また、……両商品は互いに品質・形状・用途を異にするものであっても、それに同一又は類似の商標を使用すれば、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合には、これらの商品は類似の商品にあたる(最判昭和四三年一一月一五日民集二二巻一二号二五五九頁)のである。イ号商品自体をみても、現行の商品区分に指定されていない新しい健康(補助)食品が化粧品と類似関係にあることは明らかであるが、この商品自体の類似関係を離れても、同一(又は実質的同一)の商標を使用している本件の両商品が誤認混同されるおそれがあることは疑いない。

本件登録商標の指定商品と被告の販売するイ号商品とは商標法上は商品区分は別区分とされているが、多くの化粧品会社が健康(補助)食品を販売し、化粧品店において健康(補助)食品が販売されているという取引の実情に鑑みるとき、両商品は商標法三七条一号にいう「類似する商品」にあたるというべきである。

2  被告の主張

特許庁の審査基準よりすれば勿論のこと、具体的な出所混同を考慮する判例(「清酒」と「焼酎」に関する最判昭和三六年六月二七日民集一五巻六号一七三〇頁。「自転車」と「タイヤ」に関する最判昭和三八年一〇月四日民集一七巻九号一一五五頁。「インキ」その他を含む文房具と「墨汁」に関する最判昭和三九年六月一六日民集一八巻五号七七四頁。「菓子及びパン」と「餅」に関する最判昭和四三年一一月一五日民集二二巻一二号二五五九頁)よりみても、化粧品と健康(補助)食品は到底類似商品とはいえない。特許庁の認定基準を否定する場合は、法的安定を考慮すべきで、余程の理由のある場合に限られるべきである。特許庁の認定基準を超えることの著しい本件両商品、すなわち、「食するもの」と「皮膚に塗るもの」という、材料も、品質も、用途等も多くの点において異なる商品は、到底類似商品とはいえない。

特許庁商標課編「『商品区分』に基づく類似商品審査基準」によれば、旧商品区分第四類中でも、「化粧品」と「歯みがき」「せっけん類」は相互に類似しないことになっている。このような類似の基準からみても、加工食料品である健康(補助)食品と化粧品が類似しないことは明らある。

原告が指摘する「アイスクリーム用凝固剤」「ホイップクリーム用安定剤」は化学品中の界面活性剤に属し、泡を固め安定させる作用を持つものであり、「さび除去剤」

「染み抜きベンジン」も同じく化学品中の界面活性剤に属している故に、他類間類似商品の一覧表に記載されているのである。

四  争点4(被告が賠償すべき損害金額)

(原告の主張)

被告は、旧イ号商標ないしイ号商標を付したイ号商品を、平成三年二月から同四年二月までの間に少なくとも一万個販売した(一個一万五〇〇〇円、合計一億五〇〇〇万円)。これにより原告は少なくとも原告商標の通常使用料(販売価格の四%)相当金六〇〇万円の損害を被った。

第四  争点に対する判断

一  争点1(原告商標の周知性取得の有無・程度)

1  事実関係

証拠(甲二の1、2、三の1~46、四の1~57、五の1~39、六の1、2、七の1、2、八の1~4、九、一〇の1~24、一一の1、3、一八、一九の1、2、二二、二三の1~6、二八~三〇、三七の1~22、四一、検乙四の1ないし4の各1、2)によると、原告は、昭和五五年一〇月頃から原告各商標を化粧品及びその包装に付し、次のとおり広告販売してきた事実を認めることができる。

(一) 「ビオクィーン」のシリーズとして販売してきた具体的商品は、洗顔料のダブルクレンジング、油性クリームのマッサージパック、一般肌用のオールパーパスローション、乳液のモイストクリームローション、油性タイプのエンリッチクリーム、化粧水のエッセンシャルローション等であり、価格は三五〇〇~一万円である(これ以外に小型のトラベルセットもある)。

(二) 原告は「べにゆり」と題する販促用パンフレットを消費者向けに発行し、販売員による戸別訪問やポスティング(家人不在の場合にポストへ投函する方法)によって、全国の一般消費者に配付してきた。「べにゆり」は昭和五五年九月三〇日から昭和六一年一月三一日までの間、凸版印刷株式会社に注文して合計二〇八八万六五〇〇部(うち原告各商標或いは略称としての「BQ」の商標を付した商品の広告が掲載されたものは一九八三万七五〇〇部)が製作され、一般消費者に配付された(甲二の1、三の1~46、二八)。

(三) 原告は右「べにゆり」シリーズから引き続いて「ナリス美通信」と題する販促用パンフレットを発行し、「べにゆり」と同様に全国の一般消費者に配付してきた。

「ナリス美通信」は昭和六一年四月一日発行のVOL1から毎月発行されているが、平成二年三月号までで合計二八五〇万五六六〇部が製作され、一般消費者に配付されている(甲二の一、二九)。そしてそのうち二七一八万八三一〇部には「BIOQUEEN」又は「ビオクィーン」、「BIOQUEEN Ⅳ」又は「ビオクィーン Ⅳ」(昭和六一年一二月号から)、「BIOQUEEN Ⅲ」又は「ビオクィーン Ⅲ」(平成二年一月号から)の商標が商品(化粧品)と共に表示され広告されてきた(甲四の1~57)。

(四) この他、「BIOQUEEN」「ビオクィーン」の商標が印刷されたポスター合計九五一〇部、「BIOQUEEN Ⅳ」「ビオクィーン Ⅳ」の商標が商品広告と共に印刷されたパンフレットが合計八〇万部、「BIOUEEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」の商標が商品広告と共に印刷された拡販チラシ合計一五万部が製作され、全国の一般消費者に配付されたり販売店に掲示されたりしてきた。

以上、原告各商標を付した化粧品の広告宣伝を記載したもので、凸版印刷株式会社関係で作成され配付された印刷物だけでも過去約一〇年間で合計四七九八万五三二〇部にのぼっている(甲二の1、二八、二九)。

(五) 原告は、右以外にも邨田印刷紙器株式会社に注文し、「ビュウティコレクション」「サマーコレクション」その他の広告資料を多種類にわたり製作配付してきた(甲五の1~37)。その発行部数は過去約一〇年間で合計一一九七万七一〇〇部にのぼり、これらの印刷物にも前同様原告各商標が印刷表示されている(甲六の1、2)。

また、大枝印刷株式会社に注文して、「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」のパンフレットを合計四〇万部製作し、前同様の方法により配付した(甲七の1、2)。

(六) これらを合計すれば、原告各商標を付した化粧品の広告宣伝用印刷物だけでも総合計六〇三六万二四二〇部を製作発行し、販売促進用に配付し、その印刷費は約五億円に達する(甲二の1、2、六の1、2、七の1、2、二八、二九)。これら以外にも、業務用すなわち販売店用のプロダクトガイドブック等も多数製作発行している(甲五の38、39、弁論の全趣旨)。

(七) 原告はこれら印刷物の製作配付手段以外にも、テレビコマーシャルにより原告各商標を付した化粧品の広告宣伝を行ってきた。テレビを媒体とした広告宣伝費は昭和五七年一〇月から平成元年三月までの約六年半で合計一九億二九八〇万円に達する(甲八の1~4、二二)。

(八) 原告各商標を付した化粧品の販売実績(但し、金額は消費者向け定価で算出)は次のとおりである(甲九、一八、四一)。

<1>「BIOQUEEN」「ビオクィーン」関係

昭和五五年八月から昭和六三年三月までの間(昭和五五年八、九月は販売店への販売が先行している)

数量 四四万二五二〇ダース(四三一万二四〇個)

金額 三二四億九四五八万一〇〇〇円

<2>「BIOQUEEN Ⅳ」「ビオクィーン Ⅳ」関係

昭和六一年一〇月頃から平成三年三月までの間

数量 二五万七二六〇ダース(三〇八万七一二〇個)

金額 一八五億五八五五万四〇〇〇円

<3>「BIOQUEEN Ⅲ」「ビオクィーン Ⅲ」関係

平成元年一〇月頃から平成三年一二月末までの間

数量 二〇万六五二一ダース(二四七万八二五二個)

金額 一四二億三〇八四万二〇〇〇円

<4> 右の総合計は次のとおりとなる。

数量 九〇万六三〇一ダース(一〇八七万五六一二個)

合計売上金額六五二億八三九七万七〇〇〇円

なお、原告各商標を付した化粧品の容器、包装、説明書等も右販売実績に見合うよう製作されてきている(一〇の1~24)。

2  判断

(周知性取得の有無)

以上の事実を総合して考えると、原告商標及びそれを付した原告の化粧品は、遅くとも被告が旧イ号商標を付してイ号商品の販売を開始した平成三年二月には国内において広く認識されるに至って(周知性を取得して)おり、現在においても同様である、と認めるのが相当である(甲一一の1、3、二三の1~6)。

なお、<1>原告商標を付した原告の化粧品は、主として訪問販売の方法によって、直接に需要者である顧客に販売されていること、<2>原告商標の現在における具体的使用態様は、「ナリスビオクィーン Ⅲ」等であって、原告商標

「ビオクィーン」単独ではなく、その冒頭に原告を明示する著名商標「ナリス」が付加されている(例外的に付加されていない場合は、原告の著名なハウスマーク「ナリス」が明示されたパンフレット等に収載されている場合である)こと、<3>平成元年四月以降、原告はテレビコマーシャルで原告商標の広告をしていないことは、被告主張のとおりであるが、右被告主張の各事実を考慮しても、右認定を変更することはできない。

(周知性取得の程度)

しかしながら、被告主張の右<1>ないし<3>の各事実、並びに<4>一般に訪問販売会社の広告宣伝は、販売員の販売援助のための目的が主になっていることから、企業広告が中心になり、企業の名称・ハウスマーク(「ナリス」、「ポーラ」等)の知名度獲得に主力が置かれている(甲三の1~46、四の1~57、五の1~37、乙一九の1~3)関係上、個々の商品毎の出所標識商標(原告の「ビオクィーン」や被告の「ポリシマ」等)が、ハウスマークに比し、その販売網の市場以外で有名になることは稀な事例と推認できること、<5>原告が過去に行ったテレビコマーシャルも、その一回の放映時間は三〇秒であり、そのうち「ナリス」の企業広告に用いられた放映時間が大部分で、原告商標に関する映像はその一部分であること(乙一九の1~3)、同様に前記広告宣伝用印刷物においても、原告各商標ないしこれを付した商品の記載はその一部分に過ぎないこと、<6>原告商標は全く新規な造語といったものではなく、最近流行のバイオテクノロジーの略語を意味する「BIO」(バイオ)と女王クイーンを結合したものであると容易に推認できること(乙三五の1、2、三六、三七の1、2、三八の1、2、三九、四〇)、<7>商標「ポリシマ」を付した被告販売の化粧品の販売の合計は、金額で四五一五億円余、個数で七二一四万個であり(乙一四)、これに比すれば原告各商標を付した化粧品の販売実績は遙かに少なく、また、テレビ宣伝費用についても、被告は一年間で約三〇億円であり(弁論の全趣旨)、これに比すれば原告の過去六年半で約一九億円は遙かに少なく、化粧品の販売数量金額やテレビ宣伝としての原告のそれは、別に刮目する程のものではないと考えられること、<8>後記認定のとおり(二1(四))、原告商標は原告販売の化粧品(ナリス化粧品)中の等級ないし種別を特定表示する商品整理番号的機能のものとして消費者に認識されていること等に鑑みると、原告商標が周知性を取得しているのは化粧品の分野においてのことであって、本件全証拠をもってしても、それ以外の分野、すなわち、主として美容・清潔等を目的に身体外部に塗擦等する化粧品ではなく、栄養補助のため口から摂取するイ号商品のような健康(補助)食品の分野においてまで、原告商標が周知性・著名性を取得していると認めることは到底できない。

二  争点2(商品主体間の広義の混同を生じるか)

1  事実関係

(一) 被告の規模・著名度(甲一、二一の1、2、乙二~五、一一)

被告は、昭和二一年に設立された化粧品等の販売を目的とする会社であり(化粧品等の製造部門を担当する姉妹会社ポーラ化成工業株式会社は昭和一五年設立)、平成三年現在、全国に約六〇〇〇箇所の支店、営業所を有し、従業員は正社員約一〇〇〇名(姉妹会社のポーラ化成工業を含めると約二〇〇〇名)、ポーラレディと呼ばれる専属の委託販売員は約一八万人にも達している。

被告は、主としてポーラレディと呼ばれる専属の販売員を通じて、直接消費者に化粧品の訪問販売を行っている。このような化粧品の訪問販売は被告の親会社有限会社忍総業が創業時の昭和四年に他の化粧品会社に先駆けて開始したものであり、それ以後一貫して行ってきた販売方式である。そのため「ポーラ化粧品」の名称とともにこの販売方式は被告の商品販売方式として広く需要者に知られている。

また、平成元年度の被告の化粧品の売上高は約八八五億円であり、右売上高は全国の化粧品の製造販売会社中で第三位(訪問販売による化粧品販売では全国第一位であり、世界的にも第二位)である。

被告のポーラ化粧品は、その品質と、ポーラレディを通じて顧客に直接販売を行う方法で、化粧品を愛用する女性は勿論、被告の多年にわたる広告宣伝努力により、一般人にも広く知られている。

他方、原告は、昭和二四年に設立された会社であり、化粧品等の製造販売を主たる業務としている。原告の平成元年度における総売上高は約一四五億円余であり、売上高でみるかぎり、我が国の化粧品香料の販売会社三四八社中第一九位に位置している。

また、平成二年の化粧品出荷高の国内順位は、原告が第二三位、被告が第四位であり、法人所得の国内化粧品関連業界中の順位では、平成元年は原告が第二九位、被告が第三位、同二年は原告が第二四位、被告が第八位である。

結局、総合的に見て、被告の代表的出所標識・ハウスマーク「ポーラ」は、原告の代表的出所標識・ハウスマーク「ナリス」よりも、遙かに著名である。

(二) イ号商標選択の経過と目的(乙六の1~3、七、一一、一二、四四)

被告グループは、平成元年一〇月頃から、新たに売り出す健康(補助)食品の商品名について検討を始めたが、右商品が既に被告においてバイオ技術を使用して開発していた鉄分補給素材の「ビオフェロン」とローヤルゼリーを融合した商品であったことから、最終的には右ビオフェロンの「ビオ」と女王蜂を意味する「クイーン」を結合した「BIOQUEEN」「ビオクイーン」とすることに決定した。

そこで被告の姉妹会社ポーラ化成工業株式会社は、「ビオクイーン」「BIOQUEEN」を右一連の健康食品の商標として使用すべく、該当する旧商品区分第三二類につき類似登録商標の調査を行ったところ、類似する登録商標が存在しなかったため、平成元年一一月二四日、「BIOQUEEN」と「ビオクイーン」を二段に書してなる標章につき旧商品区分第三二類の加工食料品(他の類に属するものを除く)等を指定商品として商標登録出願をした。そして、右商標登録出願につき拒絶の理由は発見されないと判断され、別紙商標公報(2)のとおり、平成三年九月二六日出願公告された。

被告の代表的出所標識・ハウスマーク「ポーラ」は、原告の代表的出所標識・ハウスマーク「ナリス」より遙かに周知・著名であり、被告が原告の信用や個別商標を利用する必要はない。また、原告も被告も訪問販売による独自の販売ルートを持っており、流通の過程において、通常、両者の商品間に混同を生じることはなく、被告があえて原告の個別商標と類似する商標を使用することにより自己の商品と原告の商品との間に混同を生じせしめ、原告の商品の名声・信用を利用して自己の利益を図るような行為(いわゆる「パッシング・オフPassing off」行為)を行う必要もない。

(三) 商品の販売態様(甲三の1~46、四の1~57、五の38、39、一三、一四の1、2、乙八、一一、検甲一の1~6、二の1~6、検乙一の1~4、二の1~6、四の1ないし4の各1、2)

イ号商品は、被告のポーラレディーにより専ら訪問販売の方法により直接顧客に販売されている。このような訪問販売の際には、販売員は、自己及び販売事業者の名称等を顧客に告げなければならないことが訪問販売等に関する法律により義務付けられており(同法三条)、実際にも被告の販売員は「ポーラ化粧品」の販売員であることを先ず顧客に明示したうえで商品の販売活動を行っている。顧客もこのような被告の販売活動を熟知しており、被告の販売員が訪問販売を行う場合には、それが被告の商品であることを知らずにイ号商品を購入することは通常考えられない。

原告と被告のそれぞれの商品は、相互に独立した販売経路を通して販売が行われており、原告の「BIOQUEEN」「ビオクィーン」化粧品を被告の商品として間違って購入することもなく、また被告のイ号商品を原告の販売する健康(補助)食品と混同することもないと考えられる。

イ号商標には被告の著名なハウスマーク「POLA」「ポーラ」が、旧イ号商標では「ポーラビオクイーン」とカナ文字の商標の冒頭に被告の著名なハウスマーク「ポーラ」が付加されており、被告ポーラ販売の商品であることが明示されている。原告の場合も同様であって、原告が当該化粧品に使用する容器、箱、パンフレット等に記載されている表示構成態様は、「ビオクィーン」の冒頭に必ず原告のハウスマーク「ナリス」が付加されており、例外的にその付加がない場合は、原告のハウスマーク「ナリス」が明示されたパンフレット等に収載されている場合であって、常に原告ナリス販売の化粧品であることが明示されている。すなわち、カタログに登載されるといっても、一方は「ナリス」のカタログであり、他方は「ポーラ」のカタログであることは明白である。

(四) 化粧品識別の第一指標

甲第四二号証添付のカタログは、原告が、化粧品の通信販売の安売り店において原告化粧品も被告化粧品も並列的に販売されていることを立証するために提出したものであるが、この力タログの記載から、化粧品の購入者が、その購入に際し先ず第一に何に着眼するものかが明瞭に看取できる。すなわち、右カタログでは、先ず第一に顧客に提供する多種の化粧品を、「ポーラ」「ナリス」等の化粧品の製造発売元会社別の商品ごとに大きく区分し、次にその化粧品会社別に区分された多種類の商品群を、原告商品の場合であればマジェスタ、ビオクィーン、フェアリーナ等、その会社の各商品商標で特定表示している。この記載に鑑みると、化粧品の購入者は、化粧品の購入に際し、先ず第一にポーラの化粧品、ナリスの化粧品というように、化粧品の発売元会社別に商品群を識別し、しかる後に各商品群のうちから必要な商品を特定選択するものであり、マジェスタ、ビオクィーン、フェアリーナ等その会社の商品商標は、主として、その会社の販売する多種類の商品群中の特定商品を識別するための指標、すなわち多種類の商品群中の等級ないし種別を特定表示する商品整理番号を、格好よくスマートに表現するための手段としての機能を果たしているものであること、これが取引の実情であることが明瞭に推認できる。そして、一瓶(九〇粒、一日二粒摂取)一万五〇〇〇円という高価格のイ号商品(甲一三、一四の1、2)のような健康(補助)食品の購入の場合も、購入の実情は同様と推認できる。

(五) 両商品の類型的差異と需要者の対応

主として美容・清潔等を目的に身体外部に塗擦等する化粧品と、栄養補助のために経口的に摂取する健康(補助)食品とは、その性質上、明らかに原材料及び品質が相違する。また、イ号商品は健康栄養補助のため口から摂取する食品であり、他方、原告が商標の周知性を取得している化粧品は身体外部に塗擦等する非食品という相違があり、その用途においても相違している。

また、両商品とも商品の性格は、化粧品という個人嗜好の強い商品と、健康(補助)食品という発売元(出所)に注意を働かせて購入しなければならない商品であり、その上、いずれも高価格品であるから、必然的に需要者は注意深く商品を選択するものと推認できる。

化粧品の需要者(その大部分は女性)は自己の身体に付ける化粧品の品質の信頼感には非常に敏感で、それだけ関心が強く、また、高価格の化粧品や健康(補助)食品の購入は、先ずその製品の品質への信頼度に大きく左右されるため、被告の代表的出所標識・ハウスマーク「ポーラ」、原告の代表的出所標識・ハウスマーク「ナリス」は、商品の選択における最大の要素と推認できる。

2  判断

不正競争防止法一条一項一号にいう「……他人ノ商品ト混同ヲ生ゼシムル行為」には、取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が、その商品の出所を混同するおそれがある場合のみならず、他人の周知商標ないしこれに類似の商標を使用する者が、その他人といわゆる親会社・子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存する等、経済的又は組織的に関係ある者の関与した商品であると誤認するおそれのある場合(広義の混同)も含まれると解するのが相当であるけれども、前記事実関係に照して考えると、本件全証拠をもってしても、原告の著名な代表的出所標識・ハウスマーク「ナリス」を付加した形態下で原告商標を付した原告商品と被告の著名な代表的出所標識・ハウスマーク「ポーラ」を冒頭に冠したイ号商標ないし旧イ号商標を付したイ号商品との間に混同が生じるおそれは勿論、各商品主体間における広義の混同が生じるおそれがあると認めることもできず、結局、原告との関係において、被告のイ号商標ないし旧イ号商標を付してのイ号商品販売行為が不正競争防止法一条一項一号に該当すると認めることはできない。

(原告の主張について)

原告は、<1>原告を含む化粧品業界では、多くの同業者が化粧品と共に健康(補助)食品の製造販売を行ってきており(甲一五)、化粧品と健康(補助)食品とは、具体的に生産部門及び販売部門が一致していること(多くの同業者も同じである。甲一五)、用途も、内からの美容、外からの美容という点で共通しており、需要者の範囲も美容に心掛ける女性という点で共通していること、被告自身も、

「COSMETICS」(化粧品)のカタログに、本来の化粧品と共にイ号商品を広告していること(甲一四の1、乙一六、四五)、これだけ共通点があれば、これらを総合判断すると商品の類似性があることにも問題はない旨、<2>本件においては、少なくとも、原告と被告が本件の各商品について原告商標を使用している事実から、需要者が、この共通の商標使用の事実を通じて、両会社が業務提携やライセンス契約等の取引関係、経済関係を有しているのではないかと、誤認するおそれが十分にあるから、広義の混同のおそれの存在は明白である旨、<3>原告商標を付した商品は、大丸百貨店(心斎橋店、神戸店、京都店)及び近鉄百貨店(阿倍野店)で販売したし(甲三〇)、他方、被告はラ・ポーラ等において健康(補助)食品・化粧品販売コーナーを設けてイ号商品を店頭販売しており(甲二五)、また、各種化粧品が販売されているいわゆる安売り店において、被告商品も販売されている(甲三三)旨、主張する。

しかしながら、右<1>の点に関しては、原告主張の事実関係があっても、我が国の現在の一般的知識水準ないし文化的水準においては、「内からの美容、外からの美容」という広告宣伝上の文言において共通の表現が使用されることがあるとしても、主として美容・清潔を目的として身体外部に塗擦等する化粧品と、栄養補助のため経口的に摂取する健康(補助)食品とは、前判示のとおり、その性質上、その間に明らかに類型的差異があると認めるべきであるから、前記判断を左右することはできない。また、右<2>の点に関しては、原告のハウスマーク「ナリス」も、被告のハウスマーク「ポーラ」も、いずれも我が国において周知著名である上、被告の方が規模においても、周知・著名度においても、確実に上位に位置しており、両会社が化粧品業界において競業関係にあることは顕著であり、需要者も右の如き両者の競業関係を明確に認識していると推認することができ、したがって、被告が、化粧品とは類型的に別商品と認められる健康(補助)食品に、被告の著名な代表的出所標識・ハウスマーク「ポーラ」「POLA」を冒頭に冠したイ号商標ないし旧イ号商標を付したからといって、両会社が業務提携やライセンス契約等の取引関係、経済関係を有しているのではないかと誤認されるおそれ(広義の混同のおそれ)はないと考えられるから、前記判断を左右することはできない。また、右<3>の点に関しては、原告の百貨店における販売も、被告のラ・ポーラ等における販売も、安売り店における廉価販売も、両会社の通常の販売形態から見れば極めて例外的販売形態であって、全体的に見て原告被告ともに主として訪問販売をしているものと認定でき、これら例外があるからといって前記判断を左右することはできない。また、被告がイ号商標ないし旧イ号商標を使用することにより、法が禁圧しようとする「ただ乗り」をしているとは到底認められない。結局、原告の主張はすべて採用できない。

三  争点3(本件商標権の効力がイ号商品に及ぶか・調整ローヤルゼリーの健康(補助)食品が化粧品に類似する商品といえるか)

1  判断

商標法三七条一号にいう「指定商品……に類似する商品」に該当するか否かは、商品の品質、形状、用途、取引の実情等より観察して社会通念によって決定されるべきものであるが、登録商標と同一又は類似の商標を使用した場合、一般的に同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれのある場合にも類似商品と認めるのが相当である。これを本件についてみるに、イ号商品は「栄養補助のために経口的に摂取するもの、食するもの」であり、他方、本件登録商標の指定商品である化粧品は「主として美容・清潔等を目的にして、身体外部に塗擦等するもの」であって、材料においても、品質においても、用途においても相違し、結局、類型的に相違すると認められるから、両商品は到底類似商品とはいえない。

2  原告主張について

原告は、<1>イ号商品は、美容のための健康(補助)食品であり、原告の商品も、単に顔面に化粧するというだけでなく「皮膚生命をつかさどる生化学成分(イ号商品の成分と同じローヤルゼリーを含む)」によって美容効果をも目的としているという点で両者は極めて近似しており、だからこそ、被告も、「COSMETICS」(化粧品)と表示したパンフレットにイ号商品を掲載している(乙一六、四五)旨、<2>口にするものとそうでないものとの間でも、例えば商品区分第三類(平成三年政令第二九九号による改正後)の「さび除去剤」「染み抜きベンジン」と同第三〇類の「アイスクリーム用凝固剤」「ホイップクリーム用安定剤」とは他類間類似商品とされている位である旨、<3>商標法上の商品の類似は、商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、また、両商品は互いに品質・形状・用途を異にするものであっても、それに同一又は類似の商標を使用すれば、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合には、これらの商品は類似の商品にあたり(最判昭和四三年一一月一五日民集二二巻一二号二五五九頁)、イ号商品自体をみても、現行の商品区分に指定されていない新しい健康

(補助)食品が化粧品と類似関係にあることは明らかであるが、この商品自体の類似関係を離れても、同一(又は実質的同一)の商標を使用している本件の両商品が誤認混同されるおそれがあることは疑いない旨、<4>本件登録商標の指定商品と被告の販売するイ号商品とは商標法上は商品区分は別区分とされているが、多くの化粧品会社が健康(補助)食品を販売し、化粧品店において健康(補助)食品が販売されているという取引の実情に鑑みるとき、両商品は商標法三七条一号にいう類似関係にあるというべきである旨主張するが、前記争点2に関し認定判示したとおりであるから、右原告主張は採用できない。

三  結論

以上のとおりであり、結局、被告がイ号商標ないし旧イ号商標を付してイ号商品を販売する行為が、原告に対する関係で不正競争防止法一条一項一号に該当するとも、また本件商標権の侵害に該当するとも、認めることはできないといわざるを得ない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 辻川靖夫)

(別紙)

イ号の1

<省略>

イ号の2

<省略>

(別紙)

商標公報(1)

商標出願公告

昭59-54961

公告 昭59(1984)8月7日

商願 昭54―93622

出願 昭54(1979)12月12日

出願人 株式会社ナリス化粧品

大阪市福島区海老江5丁目1番6号

指定商品 4化粧品(薬剤に属するものを除く)

<省略>

商標公報(2)

商標出願公告

平3-85500

公告 平3(1991)9月26日

商願 平1-133576

出願 平1(1989)11月24日

出願人 ポーラ化成工業株式会社

静岡県静岡市弥生町648番地

審査官 川津義人

指定商品 32 食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)

〔国際分類29、30、31、32〕

<省略>

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